こんにちは、㈱ラビナスの嶋村です。
とても素敵な、実際にあったお話なので、ご紹介いたします。
美容室には、いろんなお客様がいらっしゃいます。
ふらっと初めて来店くださる新規のお客様や常連さん。
また意外と多いのが、常連さんからのご紹介で来て下さるお客様。
今日の最後のお客様も、きっかけはお姉さまからのご紹介で、もう3年も通う続けてくださっている方です。
美容師の仕事は、お客様の身体に直接触れる仕事。
髪や地肌に触れながら近くで施術をするので、長年やっていると、その方の気持ちが伝わってくるようになります。
急いでいる、今日は時間的に余裕があるなどだけでなく、何かうれしいことがあったかかな、
つらいことがあって元気がないのかななど、相手の心情までわかるようになってくるものです。
反対に自分たちの気持ちもお客様に通じているのだと思っています。
心をこめてシャンプーをしているときと、心ここにあらずの状態で施術しているときでは、
指からのエネルギーが何か違うのだろうと、そう心して応対させて頂いています。
そのお客様からは何か寂しげな感じが伝わってきました。
「どうかなさいましたか?」
「え?」
「いやすみません、お仕事がお忙しかったのですか?」
「ええ」
「いつもより、少し元気ないかな? って思いまして・・」
「あっそうですか。わかるのですね」
「まあ、長い付き合いですから」
「・・・・実はね、ここを紹介してくれた姉がですがね、最近来てませんよね?」
「そういえば、ちょっと間が空いていますね」
「そうですよね・・・・」
沈黙が続いた後、お客様は涙ぐんで続けられました。
「実は姉は胃がんを患っていて、もう長くはなさそうです。病院から退院して、自宅で過ごしているんだけど、一昨日お見舞いに行ったらね、すっかり元気がなくて」
「そうでしたか、それはおつらいですね」
少し沈黙が続きました。
「そうだ、姉の髪の毛なんだけれど、病院の美容室で切ってもらっていたから、おしゃれとかじゃなくて、ただカットするだけで。
お姉さんが「一度ボブにしたかった」って言ってたの。
そういう話もかわいそうだなって・・・・」
「そういうことでしたら、私ができます。もし可能でしたら、しっかり心に残るカットをさせていただきたいです」
そうとっさに言いました。
するとその方は、目を見開いて大喜びされ、
「えっ 本当ですか! 自宅でも大丈夫ですか?」
ご自宅の場所を聞いてみると、2日後に行くことになっていた本社の近くにありました。
「明後日、17時でどうですか?」
「電話してみるわ」
すぐにその場で電話して、カットすることになりました。
「すみません、なんだかすぐに動いてくださり、ありがとうございます。本当に嬉しがっていました」
「座っているのもかなりきついと思うので、申し訳ないのですが短時間でお願いいたします」
「はい。任せてください!」
出張で髪を切り、報酬をいただくのは当時、法律で禁止されていたので、
その旨をお伝えして伺うことになりました。
翌々日のこと。
約束どおり、本社でミーティングを済ませ、ご自宅に向かいました。
「お忙しいのにすみません。よく来てくださって」
妹さんが申し訳なさそうに迎えてくれました。
「お姉さまはどちらにいらっしゃいますか?」
「こっちで切ってもらおうと思って」
リビングに案内されました。
テーブルを寄せた部分に新聞紙が敷かれ、真ん中に椅子が置いてありました。
移動がつらそうに、ゆっくりとゆっくりとお姉さんが支えられて入ってきました。
身体はやせ細ってしまっていて、おなかの部分だけは腹水でしょうか、たまっていてパンパンに張っています。
「ご無沙汰しています。久しぶりにお会いできて嬉しいです」
「よろしくお願いいたしますね」
弱々しい声で返してくれました。
「さあ今日はどんな髪型がいいですか? なんでも遠慮せずおっしゃってくださいね」
「ありがとうございます。昔から一度、ボブにしてみたくて。この頭でできますか?」
「大丈夫です。任せてください。少し髪を濡らさせてもらっていいですか」
妹さんに霧吹きを持ってきてもらって、カットを始めました。
座っているだけでつらそうなのがすぐわかりました。
なるべく急いで、ボブに仕上げました。
「いかがですか?」
「・・・・」
「お似合いですね」
「姉さん、いいわ」
「妹さんも喜んでくださっています」
「姉さん、良かったわね。 とても素敵! イメージチェンジ似合うわね。ボブ」
「あ・り・が・と・う」
絞り出した声は小さかったけれど、とても喜んでくださって、何度もうなずいていました。
お茶もご用意いただきましたが、その日はすぐに立ち去りました。
次の週になって、妹さんから再び電話が入りました。
ご自宅に伺ってちょうど一週間後のことです。
「木下さん、先日はありがとうございました。
実は・・・・姉が3日前に息を引き取りまして・・・・。」
おしゃれなボブカットで旅立ちました。
本当にありがとうございました。
あれから、姉も少しだけ希望をもってくれたのですが。寿命ですね。がんばってくれました」
そうわざわざ知らせてくれたのです。
「そうでしたか・・・・、お力を落としになりませんよう」
お会いしたばかりでしたから、かなりショックでした。
「姉からの伝言なんですが、「おかげで私もこの年でイメージチェンジができました。
次に生まれ変わったら、このカットでお願いいたします」そう伝えてと言われました」
おさえていた涙が止まりませんでした。
「美容師でよかった」
そうして私は、静かに受話器を置きました。
心の温度が冷めてしまっている人が多くなってる気がします。
心がほっこり、温かくなる話をご紹介いたしました。
人ってやっぱりいいなぁ~、自分以外の他人の気持ちになって、
他人を自分と同じ用に大切に想う・・・そんなことができる心
心の温度を上げるために、自分の心の感度を上げていきましょう!
「心が3℃温まる本当にあった物語」 著 三枝理枝子 より